“天神ビッグバン”を掲げ、大きな変化を遂げようとしている街、福岡市・天神。そんな中、西日本新聞社には何が求められているだろうか。天神に拠点を置く企業・団体を中心に構成され、西日本新聞社もその一員である「We Love天神協議会」の事務局長、荒牧正道さんを訪ね、これからの天神、共に目指すべき地域の未来について話を聞いた。
インタビュー
We Love天神協議会 事務局長 荒牧正道 さん
福岡県生まれ。大学卒業後、2002年西日本鉄道株式会社に入社。自動車事業本部、総務部、東京事務所、都市開発事業本部などを経て2020年4月We Love天神協議会事務局長。
We Love天神協議会
2006年創設、福岡市中央区天神を拠点とする民間企業を中心に、さまざまな団体・個人で構成。2023年3月末で136会員。天神をよりよい街にするため、交通、防犯・防災など行政、地域と連携し諸課題の解決に取組みながら、まちづくりを進めている。
コロナ禍を経て変化する、市民と天神と協議会の活動
We Love天神協議会の主な活動を教えてください。
福岡・天神エリアの企業、団体、住民、行政など多様な活動主体でエリアマネジメントを行っています。「上質に洗練された賑(にぎ)やかなまちづくり」「歩きやすいまちづくり」をはじめ、安全・安心で快適な環境をつくり、豊かな生活文化を創出しようというのが目的です。
エリアは、西は赤坂、東は中洲、北は天神北、南は渡辺通の城南線までと広範囲です。
コロナ禍以前と後で活動に変化があったのでは。
にぎわい創出についての活動は、コロナ以前とは全く別物に変化しました。以前は集客力のあるイベントを頻繁に主催し、「天神ではいつも何かが行われている」ということを来街者はじめ多くの人に知ってもらい、「天神って面白いまち、楽しいまちだね」と感じ訪れていただくため、例えば夏休みに福岡市役所西側のふれあい広場にプールを設営した「天神涼園地」、同所での「天神夏祭り」、岩田屋本館と新館の間のきらめき通りで実施した「FUKUOKA STREET PARTY(福岡ストリートパーティー)」ではファッションショーを開催。クリスマス事業では、渡辺通りの街路樹にイルミネーションを施し、警固公園にスケートリンクやメリーゴーラウンドを設置するなど、天神への集客施策に注力していました。
それがコロナ禍を経て…。
人を集める活動ができなくなり、オンライン会議が一般的になるなど生活様式の変化もあって、天神に来街しなくても事が足りるという事象が出てきました。とはいえ天神は商業の街なので、やはり街自体に人を呼びたい。ですからここ数年は、正直、非常にもがいていたとも言えます。
しかしこれをきっかけに、持続可能なにぎわいづくりとは何なのかを考えました。答えが出ている訳ではありませんが、天神には「憩える」「くつろげる」空間が足りなかったので、そういう空間の創出などに力を入れ始めています。とはいえ、カンフル剤としてのイベントも必要なので、全くしないのではなくバランスを取ることが大事だと思っています。
くつろぎの空間づくりでの具体例を。
現在建て替えが進んでいるイムズと南側のツインビルの間の道で、2022年7月の土・日曜に「天神 憩いの時間と空間プロジェクト」という社会実験を実施しました。道路を歩行者専用にしてベンチやパラソルを置き、小さなにぎわいとして大道芸や福岡市の高校生のダンスサークルを呼びました。また、「TENJIN SHOWTIME」といって広場や空き地を使ってキッズダンスを披露。子ども連れのお父さん、お母さんもホッとできるような空間づくりとして好評で、今後も必要な取り組みだと考えています。
天神と市民の橋渡し、活動成果可視化に西日本新聞社の力を
天神という場所は、どんなエリアでしょうか。
大型ショッピング施設やオフィスが集まる天神1丁目、2丁目だけが天神ではないという認識で、大名や今泉には特色ある個店が多く、春吉や西中洲は情緒ある大人の街、天神北や舞鶴はクラブやサブカルチャーの店が集まり、住民も多く住んでいる。そんなさまざまな魅力がぎゅっとコンパクトにまとまった街が天神です。
協議会と西日本新聞社との関係性をどう捉えていますか。
西日本新聞社は協議会発足当時からの会員であり、大変ご協力いただいいています。毎月の幹事会では多くの施策を一緒に考えてきました。会員にはテレビ局など他のメディアもおられますが、天神に本拠を構え、役員として協議会の運営に携わっているのは西日本新聞社だけです。
以前はイベント集客のための発信などにメディアとしての大きな役割がありました。今後どのように関わっていくかは一緒に考えたい課題です。
そうですね。われわれとしても今後力を入れたいのが、天神と市民の皆さんとの関わり、そして会員各社の活動参画の促進です。施策作りやイベント実施も事務局主導ではなく、多様な意見をもらって皆でつくり上げていきたい。そうなると、読者を中心に一般の方とのつながりを大変広く持っている新聞社には、橋渡し役というかハブ的な役割を期待します。新聞購読者の中心世代の年齢が高くなっていると聞きますが、天神も当然そういう方々にも優しい街になるべきで、どういうサービスがあれば街の価値が向上するのか、一緒に行動できる部分が多くあると思います。
また、われわれの活動が街の価値向上にどう関わったかを可視化して皆さんに伝える必要がありますので、そんな面でも共に考えたいですね。
商売敵が手を携えて街を盛り上げる動きは全国的にも珍しく、視察も多いと聞きます。
同じテーマで各館趣向を凝らした懸垂幕を出したり、イムズ閉館時にはエール交換したり。協議会と都心界共同で制作した“天神に来てください”というメッセージCM「お願いドミノ」もそうで、大変話題になりました。現在はYouTubeでご覧になれますよ。
街の情報共有や街を良くしていこうという点で、本来ならライバルでもある商業施設も一緒に垣根を越えて取り組んでいます。そのDNAが商業施設だけでなく企業にもあります。皆が固い絆で結ばれているのです。
全国的に再開発が進んでいるので、特に最近、視察が増えています。協議会にはハード面でなく、ソフト面の取り組みをお尋ねになります。
天神ビッグバンでグレードアップ。会員と協力し「まちづくりガイドライン」改訂へ
天神ビッグバンでグレードアップ。会員と協力し「まちづくりガイドライン」改訂へ
天神の街がグレードアップされ、より魅力が高まりますので大いに期待しています。そして刷新したハード部分は、街のために利活用してほしい。そこでMDC(天神明治通り街づくり協議会)と連携し、これまでのわれわれの経験を伝えています。
また、今後オフィスワーカーが格段に増える予定なので、ランチやアフターファイブの環境も含め、取り組む課題はいろいろありますね。
※福岡市 天神ビッグバン
協議会では「ウォーカブルなまちづくり」を掲げていますね。
今後人口が減る中で、車の量も減っていくでしょう。そんな未来を前に、街も道路も「人を中心」に構築していこうという考えで、大阪市も御堂筋を「車中心から、人中心のストリートへ転換することで、新たな体験ができる空間を生み出していこう」と明確なビジョンを打ち出しています。天神も同様に、くつろげる空間を含め、より良い環境になるよう取り組んでいきます。
「天神まちづくりガイドライン」の改訂。
2022年6月から月1回、地区会員を中心に15社の24人で集まり、改訂に向け話を進めてきました。2008年にできたガイドラインですが、その頃とは経済など社会情勢や求められる活動内容が変化しました。eコマースが普及して商業の在り方自体が変わり、マナー向上も以前はごみを拾うだけだったのが、現在は拾った物を次に生かすアップサイクル、リユース、リサイクルの取り組みと連動させるようになりました。多くをSDGsの観点で活動する必要があり、そうでなければ市民に選ばれません。
実は当初から、一度2020年あたりに見直す予定でした。しかしコロナ禍とぶつかったこともあり、コロナや天神ビッグバンの進捗(しんちょく)など、情勢を見極め、2023年5月に改訂を行うことができました。
最後に今後の展望や荒牧さんの希望を聞かせてください。
やはり「天神=ワクワクする街」になってほしい。アートやカルチャーなどに触れて「天神に来るとアップデートできるね」とか、「また来たい」と思ってもらえる街づくりを考えたいですね。それには安全・安心がベースに必要ですし、協議会の会員の皆さんと市民の方々と一緒に作り上げていきたいです。