いま、企業に求められる課題の一つに社会・地域貢献が挙げられる。西日本シティ銀行(福岡市)はこの課題に長く取り組み、その実効性や多彩さにおいて地域でも一歩も二歩もリードする存在といえるだろう。西日本新聞とはさまざまなプロジェクトで協力関係にあり、22年9月には「未来をつくろう Make Fukuoka SDGs」を共にスタートさせた。同社執行役員 広報文化部長の小湊真美さんに、地域貢献への思いや話題のプロジェクトについて聞いた。
西日本シティ銀行
NCB 取締役常務執行役員 小湊真美(こみなと まみ)さん
西南学院大商学部を卒業後1990年に旧福岡シティ銀行に入行。 箱崎支店、本店営業部、西新町支店などを経て2011年5月に太宰府支店の支店長に。14年5月長住支店長を経て15年5月広報文化部長、23年6月から西日本フィナンシャルホールディングス執行役員、西日本シティ銀行取締役常務執行役員に就任。
脈々と受け継がれる地域貢献、地域課題への強い思い
御社のSDGsへの取り組みについて聞かせてください。
前身の西日本銀行と福岡シティ銀行の時代から、「地域に密着している銀行だからこそ地域に貢献したい」という強い思いで多種多様な取り組みを行っており、合併後も「地域の発展なくして西日本シティ銀行の発展なし」とその思いは脈々と受け継がれています。近年では地域貢献の取り組みをSDGsという切り口で整理することで地域の皆さまと共通の「物差し」ができたと感じています。「持続可能な社会を皆さまと一緒につくり上げていきたい」と考えています。
さまざまな取り組をしておられますが、いくつか具体的な例を。
我々のSDGsへの取り組みは、大きく2つに分けられます。1つは本業の金融的な支援。もう1つは地域貢献活動や地域課題の解決といった非金融面の支援です。
金融面では、SDGsに取り組むさまざまな事業者様への支援という形で、「SDGs応援ローン」や「SDGs私募債」などの金融商品をご用意しています。また、このような資金調達支援や環境関連融資、創業支援など、持続可能な社会を実現するためのファイナンス全般を「サステナブルファイナンス」と定義付けています。2030年度までに累計2兆円の実行額目標を掲げ、お客さまのニーズや状況に応じて支援していく計画です。
例えば「SDGs応援ローン」は、23年1月末で既に1,440件521億円ほどの融資がまとまりました。地域の企業にこのような融資を利用していただくことで、SDGsを意識した取り組みや商品開発の実現につなげてもらえたらと思います。
非金融面の支援は多岐にわたっています。例えばSDGsの発想力が身に付くカードゲーム「街-1(まちわん)」を使ったイベントの開催や広告会社と協働してサポートをするワークショップ型のコンサルティング「SDGs事業アイデア発想塾」を実施しています。
「街-1グランプリ」は大変話題になりました。
九州博報堂(福岡市)と開発した持続可能な街づくりの発想力が身に付く「街-1カード」を使ったイベント「街-1グランプリ」は、19年10月に初めて実施したところ大変盛況で、各方面から「うちでもやってほしい」と声がかかりました。コロナ禍でその後の開催が難しかったので、その間に特許取得に取り組み(22年3月取得)、多くの方が持続的に学べるよう2022年6月からカードの販売をスタートさせました。
他にも、「お金の学校」という子ども向けのイベントを主催し、SDGsにも触れながらお金の価値や役割、銀行の仕事を楽しく学ぶことができる場を用意しています。子どもたちのほうが環境問題や貧困問題、食品ロス問題、ジェンダー問題など、日頃からSDGsを意識しているように感じますね。
「街-1」がもたらす効果とは。
「SDGsへの取り組みを始めたいが、何からやっていいか分からない」という企業も多く、そのきっかけづくりや従業員の啓蒙に、このカードゲームを使っていただくと大変好評です。SDGsへの理解が深まるほか、ゲームを進行していく中で、皆さんが真剣にアイデアを考えて提案するので、そんな様子を見た経営者からは「社員がこんなに生き生きとし、次々と良いアイデアを出すのに感激した」という感想も。そういった場を提供できているのにも意義があると思っています。
企業のSDGsの取り組みに一も役買っているのですね。
コロナ禍で、多くの企業がこれまでのやり方では商売や事業がうまく進まず、業態変更や一層の創意工夫が必要になっています。生き残るためには新しいアイデアを生み出し、実行していかなければならなくなりました。そこで、その発想の手助けとなるよう実施しているのが「SDGs事業アイデア発想塾」。このワークショップでは、企業版「街-1カード」を使い、自社の置かれている状況に置き換えて、社員同士でアイデアを出しながら自社の課題を解決し、収益を得るまでを最終ゴールに設定し、実際に自社の事業として具現化していきます。
コロナ禍にスタートした「ワンクのSDGsプロジェクト」とそこから始まった「フードドライブ活動」
「ワンクのSDGsプロジェクト」と「フードドライブ活動」について。
21年8月から始めたフードドライブのきっかけになったのが「ワンクのSDGsプロジェクト」です。フードドライブ活動をなぜ銀行が? と思われる方も多いと思います。その経緯を少しお話しします。
弊行のキャラクター「ワンク」を使ったグッズを作り、販売売上金の一部を「ワンクのSDGsプロジェクト」の一環として、さまざまな施設や団体に寄付しています。寄付先を検討していたところ、福岡県大野城市の認定NPO法人チャイルドケアセンターを知りました。そこで寄付したい旨を伝えると、「大変ありがたいけれど、こちらからもぜひ相談したいことがある」と。それは同センターが運営している子ども食堂の話でした。
コロナ禍で、子ども食堂も活動自粛を余儀なくされる中、親の経済的な問題やネグレクト(育児放棄)など、食べ物に困っている子どもが数多くいるというのです。そこで、いろんな所から食材を集め、子どもに届けたり、取りに来てもらったりしていると。そして「貴行にはたくさんの行員がおられるので、一人一品でも何か食品を提供してくださると、多くの子どものサポートになります」という提案でした。
そんなに食べ物に困っている子どもがたくさんいるとはと、その事実に大変驚きました。早速、頭取の村上(英之)に相談したら、すぐに「ぜひやろう」と。それがフードドライブ活動の始まりです。
最初は同センターの活動拠点である筑紫地区からスタートしました。行内の口コミやメディアに取り上げてもらったこともあり、他の地域ブロックや支店でも支援の声が上がり、現在100拠点で実施。昨年末までに約2000㎏の食材を提供しました。この活動は子ども支援と同時にフードロス問題の改善にも直結しますし、「ワンクのSDGsプロジェクト」とこのフードドライブ活動は並行して継続していきたいです。
メディアとタッグを組んで地域のSDGsを発信する「未来をつくろう Make Fukuoka SDGs」
「未来をつくろう Make Fukuoka SDGs」についての狙いや意図を。
多くの企業は自社のSDGsの取組みをどう発信していいか分からないという状況からのスタートです。地域の企業が手を組んで、地元企業のSDGsの取り組みを発信することで、その企業にとっては自社のPRにもつながります。さらに、SDGsに資する情報発信が皆さんの目に触れることによって地元のSDGsに対する機運をさらに高めたいという狙いで、西日本シティ銀行、西日本新聞社、RKB毎日放送、電通九州の4社でタッグを組んでスタートしました。
そんな中、西日本新聞社に期待することは。
この活動に限った話ではなく、銀行がお知らせしたいことをいくら弊行からリリースを出しても、新聞などのメディアに取り上げてもらわなければ、世の中にはそんなに広がりません。こちらからしっかり発信し、それを情報として伝えてもらうことが非常に大事です。
さらに、なぜ西日本新聞かというと、やっぱり多くの購読者がいて、地域のことを一番よく知るブロック紙だからです。我々のような地域に根差した金融機関としては、地域の新聞社と協力することの意義は非常に大きい。実際に、お客さまも当行が記事になることや自社が西日本新聞に載ると喜ばれますよ。「新聞に載ったよ!」と(笑)。
新聞の良さとはどんな点にあるでしょうか。
新聞は広げるといろんな情報が目に留まり、自分の視界の中から広く情報を選択できます。ネットニュースは自分が知りたい情報は奥深く知ることができますが、自分が知らない情報や興味関心がない内容は入ってこない。そこが新聞とネットニュースの決定的な違いだと思います。
情報の要る、要らないは、本人の取捨選択次第でいいと思うのですが、さまざまな情報が俯瞰(ふかん)して目に入ってくるというのが新聞ならではの特徴で良さだと思います。
「ワンクアートプロジェクト」は西日本新聞で発表されました。
コロナ禍で外出自粛状況が続く中、なんとか福岡の街を元気にしたいという思いで「ワンクアートプロジェクト」を企画し、開催しました。初回は21年、家庭でもできるワンクの塗り絵を募集し、作品を集めてモザイクアートにしました。
作品は西日本新聞の紙面やJR博多シティのサイネージで披露しました。コロナ禍にあっても、みんなで一緒に何かを作り上げる楽しさを感じ、彩りがとても華やかなワンクを見て元気になってほしいと考えたからです。
22年は行動制限も緩和されたので、子ども食堂と協力してイベントを企画。会場にワンクの塗り絵コーナーを設けました。クリスマス前でしたので、完成した作品は西日本新聞にもご協力いただきイオンモールの大きなクリスマスツリーに作品を下げて展示しました。これは参加者にもイオンモールの買い物客にも大変好評でした。
今後、スタイルは変わるかもしれませんが、福岡や九州の各地域を元気にしたい、応援したいという思いは変わりませんので「ワンクアートプロジェクト」を続けていきたい。西日本新聞にもますますの協力をお願いしたいと思います。